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「寒むーい、もう、やんなっちゃう。廊下にも暖房くらい入れてよね」
鼻水を啜りながら、安宅礼央(あんたくれお)はブルッと身震いした。冷気を通り越して白く凍る自分の吐息の行方を追い、肩を落とす。
冬休み中の学校は、生徒たちの熱気が皆無なだけ余計気温が低下している。上履きの靴底からも冷気が浸みこんで来る。まるで氷の上を歩いているような感覚だ。普段の熱気を思い出し、人の熱だけで電気がつくれるんじゃないかと思う。だが今日はまるで冷凍庫だ。雲泥の差にますます落胆する。
登校する生徒のいない冬休みに、たったひとりの生徒のために廊下にまで暖房を入れる親切心や予算などこの学校にあるわけがない。それでなくても外壁にひびが入っているというのに、金をかけるのはそっちが先だと誰もが口を揃えるだろう。
「まったく、何でこんな日に」
今日は昼頃まで寝て、昼からゆっくり風呂に浸かって、ゲームをして…。頭の中に思い描いていた冬休みの一日が昨晩の電話で壊された。担任教師(といっても最近産休を取った女性教師のピンチヒッターだが)からの無慈悲な電話で。
確かに二学期の最終試験の数学で赤点を取った。勉強を怠った自分も悪い。だが、あと一問正解していれば赤点は免れていたのだ。しかも間違った答えの中にひとつだけ、単純な計算ミスがあった。
「公式も解き方も間違ってないんだから、一問くらい多めに見てよね」
本土から赴任してきたばかりの若い数学教師の顔を思い浮かべ、うんざりする。
呼び出しがないから追試はないものだと高を括っていた。だが、なかなかイケメンではあるがどこか意地悪そうなあの教師が追試をしないわけがない、と思い直してげんなりする。
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