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既視感
鳥の鳴き声で目を覚ますと、見覚えのない天井、やけにさっぱりとした部屋。またしても全裸。
顔を右に向けると、一糸まとわぬ後輩ちゃん。
やっちまった。
もう酒飲まないほうがいいな。
とりあえず、シャワーをお借りしようかな。
バスルームに入り、給湯器のスイッチを捻ると、チチチチ…という音とともに、赤いランプが点滅し、湯が沸かされはじめたことを教えてくれる。
あくびを噛みこらえながら、栓を捻り、湯を出す。
シャワーのホースに満ちて沸かされなかったぶんの冷たい水が眠気を覚まし、ゆっくりと温かくなる湯が、心を落ち着かせてくれる。
整頓されたステンレスの棚には、いい香りのボディーソープ。
手で泡立て、軽く体を洗ってゆく。
いつもの自分と違う香りに、侵食されていくような、披征服感。
そしてやっちまったな、という後悔。
今日どんな顔して後輩ちゃんと話せばいいんだ。
浴室から出ると、時刻はまだ五時半。
家に帰ってスーツを着替えるくらいの時間はあるだろう。
「あ、先輩、おはようございます…」
眠そうに目の端を擦る後輩ちゃん。
昨日のこと、どの程度覚えてるんだろうか。
「んん…昨日、私に甘えてくる先輩、可愛かったですよ…ふぁあ…」
あくびをしながら、なんでもないことのように言う。
「先輩、一回帰るんでしょ?またあとで会いましょうね。」
「あ、ああ。」
こういうとき、何て言えばいいのかわからない。
ごめんなさい?ありがとう?
わからないから。
「えっと…またな。」
たぶん不正解な言葉を彼女にかける。
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