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「あの程度で死んでる場合ではないからの、だがワシらのやり方伝授は、小僧が怒りそうだな……」
「空を飛びたいとか無謀な事は言いません。スタンガンもあの場合使えないし、撃退スプレーもフルフェイスじゃ無意味だから困ってます」
ニヤリとしてグミを頬張っているが、今日の見た目は裕福な育ちのおじいさんに見える。
「オモチャが武器か……人間は弱すぎる」
「仕事を離れるとただの貧乏人です、空手みたいに瓦に手をぶつける根性もありません。身体も硬いのでハイキックも無理です」
「ふむ、痛い思いは無理で、柔軟性もなしね」
二袋目のグミに手を伸ばす朧は苺味も気に入ってくれたようだ。
和室に案内され用意された座布団に座り、イナリを膝に乗せて待つと二冊の雑誌を渡してくれた。
「……盆栽造り」
なぜか2と3があり、表紙には高そうな植木がアップで写っている。
精神を統一しろ的なのは面倒だし、妹に至っては興味のない事に集中力を注げない。
姉の目から見たって『落ち着きがない』と分かっている。
おまけに早く護身術等を習得したいのに、一年後とかも目指せない。
「百合にはどう見える?」
朧が口を開く度に苺の匂いが部屋に広がり、一つ摘みたくなる。
盆栽雑誌にしか見えないが、そう答えると怒られそうなので考えるフリをしながらページを捲る。
「ん?何これ……」
武道の型みたいな絵が順番に書かれていて、カメラを連写したように一ページに流れが書いてある。
「これ、職場に持って帰っていいですか?」
「姉妹以外には盆栽の雑誌にしか見えんし、最後のページまでいけば消えるから原本も残らん」
いきなり出来る自信もないし、諦め半分でいると朧は立ちあがり、私のおでこに手を当てた。
ジンワリと温かくなり、全身に気のめぐりを感じるように穏やかな心地よさもある。
「これでよし」
手を離しても特に変化は見られず、キョトンとしているとストレッチするよう勧められた。
不思議に思いながら腰を曲げて屈伸をすると、地面に手がベタづきで、骨がどうにかなったと錯覚してしまった。
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