神の住む処

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「ぐわっ、自分が気持ち悪い!」 「身体が柔らかくなれば強くなれそうなんじゃろ?」 微笑む朧が社長に見えてきたが、所詮私の考える強いイメージなんてたかが知れてる。 足を高く上げキックするヒーローを洋画や、なんかの番組で見た事がある。 柔軟性は強さの象徴と勝手にイメージしていた。 「まぁモチベーションは必要だ。あとは職場の力を使わんでも、特にお主らは何とかなる」 「えっーー!?」 説明を固唾を飲んで待っているのに、適当だしチラチラ懐中時計に目をやる姿も気になる。 「今日ってもしかして忙しいですか?」 「少しばかり、百合は何時まで滞在できる?」 「特に何も言われてないので……夜までに帰ればいいかと」 「じゃあ一緒に出かけようか?」 気軽なタッチで誘われたが、ウチのキツネ面は勿論の事、モノホンの狐の誘いも安易に受けたくはない。 いつも変な事に巻き込まれ命の危険に晒されたり、涙も止まりそうな恐怖を味わっているから。 「同じ狐の世界でも観光地だし瑠里もおる、簡単に言えば女子会に参加する感じだし楽しそうでしょう?」 「瑠里が?でも勝手に移動したら社長に怒られますよ、今回は特別にここへも来れてるんで」 「じゃあ電話して聞いてからにしよう」 ニヤッと笑う様を見ると許可が下りる自信満々のようだ。 木村さんに電話をして事情を説明すると、間髪入れずに了承されてしまう。 「観光でもして帰れば?社長も居ないし楽しんで来て」 気遣ってくれたのかもしれないが『すぐに帰って来なさい』と言われた方が気が楽だった。 イナリは膝の上でスヤスヤと眠っていたが、こちらはドキドキしながら朧の居なくなった部屋で待っていた。 五分後入って来たのは色白で綺麗な女性二人。 『誰だ』と言わんばかりの目でお辞儀すると、クスクスと笑い声が聞こえる。 「……やっぱそうだよね」 「神を見破るとはレベル上がって来たね」 普段すれ違っても絶対に朧と桜舞だとは気付かないが、出てすぐに入ってきたし、微かに苺グミの匂いもする。 私達に手を翳されると、ピンクのブラウスにパンツを履いた他所行きの服装に変わっていた。 「さぁ、チャラい観光エリアで女子会に参加するわよ!」 イナリまで同じようなピンク色の服を着せられていたが、お気に召しているかは疑問だ。
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