労いの食事会

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それも含めてゲームを楽しんでいるのだ。 すべて舐めるように探索し納得するまで次に進まない。 私はゾンビが出てくると動揺してすぐ逃げてしまい、アイテムを取り損ねて注意される。 「普通のトレーニングに戻すよ!せっかく出てきたし練習したいから」 妹はサングラスを外し不服そうだったが、イナリもしつこく床を掘る仕草をしていた。 「イナリも戻って来て!」 河童からのSDは、いつの間にか改良までされていて、本来サングラスなしでも練習できるようになっている。 にも関わらず、サングラスをしたいのはテンションを保つ為なのかは不明だ。 パネル操作をして元の状態に戻すと、つまらなそうに妹とイナリがこちらに帰って来た。 「ちゃんと練習してる?普通にゲーム楽しんでるだけなんじゃない?」 「ふふん…見くびるでない!二人共新たな技が生まれておるわ、アイテム狩り同様にな」 「はいはい…じゃあ始めるよ」 開始しようとすると部屋のドアが静かに開き、見たくない顔がにこやかに覗き込んできた。 「感心ですね、最近は休み返上でトレーニングしているとか?」 キツネ面の社長が来るとロクな話を持って来ないので、出来れば速攻どっかに消えてほしい。 忙しい筈なのに時間を割いてまで来るという事は絶対に『頼みごと』に決まっている。 「今年は異世界で勤務している者の中から数名『労い食事会』に呼びます。毎年出来ないのが残念ですが、仕方がありません」 「……でそれが私達に何の関係があるんです?」 妹が早速切り出すと、ニタリと笑った社長の表情で嫌な予感は膨れ上がった。 「新人が先輩方をもてなす……と言ってもすべて揃ってるので、お酌と話し相手くらいです。因みに出される料理は食べてOK」 「やります!」 妹は即座に手を上げたが、それだけではないような気がして、私はすぐには反応しなかった。 「悟達も通った道だよ?任務じゃないし……あとイナリも連れて来てね」 「えっ?犬同伴なんですか?」 「場所は職場だし、むしろイナリが居た方が都合がいいんじゃよ。夜はご馳走準備して待っとるぞぉ」 用件だけ言うと社長は出て行ったが、二人で顔を見合わせると、何となく腑に落ちないでいた。
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