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労いの食事会
「さて漁に出ようか、それとも盗人になるかい?」
布団越しに声をかけられウンザリした顔で見ると、瑠里とイナリは出かける気満々で服も着替え終わっている。
「たまには休みゆっくりしようよ、パス…寝たい」
「何っ、たるんでおるな……仕方ない、今日はイナリと行くか」
玄関のドアが閉まる音を聞くとゆっくり身体を起こした。
トレーニングに釣りとゲームが導入されてから、ゲーマーの瑠里はノリノリで休みもほぼ毎日職場に足を運んでいる。
初めは付き合っていたが、あまりにもしつこいので最近は断る日もある。
レベルアップはしたいけど、自分の趣味全開でトレーニングをする大蛇について行けなくなってきたのだ。
机の上に置いたパンフレットを手にリビングに向かい、コーヒーをいれるとテレビを見ていた母が『何?』という視線をこちらに送っている。
「食べ物じゃないよ。会社のパンフレット見てみようと思って……因みにケーキ予約の用紙もまだないから」
必要な事が聞き出せて用無しになったのか、時代劇に目を戻した。
私はページを捲りながら会社概要についてボーッと読んでいた。
受付にあったので持って帰ったが、表の仕事のパン屋について殆ど知識もないし、母に聞かれた時に答えられるようにしておきたい。
面接を受けに行った時はただのパン工場だと思っていたが、私達の職場は本社で他に4つも工場を持っていたとは全く知らなかった。
商品開発もあの場で行われており、尚且つ卸しているのはスーパーやコンビニ、介護施設等多岐に渡りベーカリーショップもある。
街にイートインスペース完備のパン屋があるのは知っていたが、まだ入った事は一度もない。
表の仕事も真面目にしてたんだと改めて分かり、私も事務職に配属して貰えないかと淡い期待も捨てきれなかった。
「へえ、小麦ベーカリーって結構凄いんだね、海外にも出店してるよ」
いつの間にか背後から覗きこんでいた母は、饅頭を取りに来たようだ。
「百合も英語とか勉強しとけば?損はないと思うよ?」
パン工場で働いてるとはいえ、海外店舗に抜擢される事はまずないのに、能天気な母はいらぬ心配をしている。
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