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「安治(あんじ)、ちょっとこのボタン押してみないか」
「北条さん……何それ?」
「いいから。どうせ暇だろ?」
「……何のボタン?」
「気にするやつだな。じゃあ、逆に何に見えるよ」
「……核ミサイルの発射スイッチ?」
「ははは、想像力が乏しいな、おまえは。そんな大それたもんがこんなチープな作りなわけないだろ」
「それか、五億年ボタン」
「…………」
「ちょっと、なんで黙るの。『ばれたか』って顔してんの」
「まあまあ。……安心しろよ。いくら俺が天才科学者だって、本物をそう簡単に作れるわけないだろ。これは偽物だ。だから押してみろ」
「やだよ。偽物なら押す必要ないじゃん。全然安心できないよ」
「必要なくてもさ、押すだけだぜ、簡単だろ」
「じゃあ、北条さん、押してみてよ」
「…………」
「さよなら」
「待てよ。じゃあ、押したら何か良いもんやるよ」
「いりません」
「待てって……。おまえ、五億年ボタンを押したらどうなると思ってるんだ?」
「どうって……別の次元に飛ばされて、五億年ただ生きるんでしょ、苦痛だよ」
「おまえの想像は雑なんだよ。もっと頭を使えよ。ほら、ボタンを押しました、別の世界に行きました。目を開けると、そこには何がある?」
「そこには……何もないんでしょ?」
「何もないってどういうことだ?」
「だから……無なんじゃないの? 何も見えない」
「それが浅はかだってんだよ。いいか、五億年ボタンの話ってのはな、別の世界で『五億年間、意識がはっきりした状態で眠ることも死ぬこともなく、一人で生き続ける』ってんだろ。だったら、自分の体はあるんだろうが」
「ああ……体がなかったら『生きてる』とは言えないもんね。じゃあ、自分以外のすべてがないんだ」
「ついでにだ、その体はどうやって認識するよ」
「認識? ……触る」
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