謎のボタン

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「まあ待てよ。さっき、『光はある』って言ったが、太陽があると思うか?」 「それはないんじゃない。あったら変な気がする」 「うむ。自分は死なないんだからな。寿命のあるものは存在しないだろう。少なくとも、太陽や月が上ったり沈んだりはしないはずだ」 「もしするんなら、それを眺めて気を紛らわせるもんね。もう何日経ったなあ、とか」 「ああ。時計はあると思うか?」 「もっとないよ。あったらずっと見てるよ」 「だったら、どうやって時間を計るんだ?」 「え? ――」 「五億年だろ。ふつうなら人の一生なんて、その一瞬で灯っては消えちまう。だけど、腹も減らない、眠くもならない、狂いもしないってことは、時間が止まってるのと一緒だ。ほかに時間の経過を感じさせるようなものもないだろう。どうやって時間を認識するんだ?」 「だから……自分は認識しないんじゃない? 異次元の話なんだからさ――こっちの基準で言うと、五億年に相当するってだけで……。ううん、どう計るかなんてわからないけど」 「まあその説でいいよ。どう計るかはともかくとして、俺らの世界にあてはめると五億年分な。しかしおまえ、太陽も時計もなかったら、いったい何時間経ったかなんてわかるか?」 「そりゃ、腹時計で――ないのか」 「ああ、腹は減らないって設定だ。当然、トイレにも行かないだろうな」 「眠くもならないんだもんね。ほかに変化する物も何もないんだよね、きっと。じゃあ……わかんないんじゃない?」 「俺もそう思う。きっと一年間も十年間も百年間も、違いなんてわからないだろう」 「すごく長く感じたけど一時間しか経ってない、とか、逆にぼんやりしてたら百年経ってた、とかね」
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