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「――っ、」 「芽衣、大丈夫か!?」 「芽衣さん、」 「芽衣さん!?」 みんなに声をかけられた芽衣は、片手は腰に、反対の手をひらりと振って矢部を掴んだ。 「だ、大丈夫」 矢部が肩を抱きながら立ち上らせると、芽衣は、ほっと息を吐いた。 「危なかった……ぎっくり腰になるかと思った」 んーっと言いながら腰を反らせたりひねったりする。 大丈夫そうな芽衣に、全員がほっと息を吐いたところで、銀が口を開いた。 「……っつーか、芽衣さんって歳いくつなんだっけ?ぎっくり腰になる年齢だったか?」 芽衣の顔が引きつり、心羽と華が信じられないという顔を向けた。 「銀ちゃん、女性に年齢聞くとか、すっごく失礼!」 「そうですよ!信じられません」 「いや、だってよ!こんなに年齢不詳な女、キャバクラでしか見たことねーよ!」 銀が顔の前で手を振ると、芽衣の冷たく光った瞳が銀を見下ろした。 「……鉄銀二。仕事3倍にしてやろうか?」 「ひぃぃ!す、すみませんでしたー!」 「……チッ、」 芽衣と銀のやりとりはもはや日常茶飯事だ。 「芽衣さん、だんだんヤブっちに似てくるよねー」 ライトが楽しそうに両手を頭の後ろで組んだ。 「あぁ?そりゃ、夫婦だからな」 矢部がにやりと口の端を持ちあげる。 そしてわざとらしく芽衣の肩を抱き寄せた。 小さな二人が部屋中を駆け巡り、心羽と華がコーヒーを入れる。 大人たちがソファやイスに座り、ホッと気を抜いた。 会話はたわいのないものばかり。 銀がおかしなことを口走り、全員から突っ込まれ、からかわれ、そしてみんなで笑う。 芽衣の瞳は、向かいに座る心羽や華の膝に乗る虎太郎や愛華を見つめ、柔らかく細まった。 かわいいなぁ。 いつも飛びついてくる小さな体、ふくふくとした温かさに顔が緩む。 小さな手が自分の指をつかみ、両手を広げて抱っこをせがむ。 いいなぁ、可愛いなぁ。 目を伏せた芽衣の背中を、矢部の大きな手が往復した。 休憩時間は十数分。 残りの仕事に散らばる中、銀とブシと共にエレベーターを降りようとした芽衣の手を、矢部が掴んだ。 ドアが閉まり、下に向かう。 狭い箱の中、矢部が芽衣を抱き寄せて、一度ぎゅっと抱きしめた。
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