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「理人?」 腕の中で芽衣が見上げた。 エレベーターの扉が開き、驚いたまま矢部を見上げる芽衣にひらりと手を振る。 矢部は芽衣のフロアのボタンと閉まるボタンを押して降りて行った。 「……え?理人……?」 芽衣の声が微かに聞こえる。 矢部はエレベーターの扉が閉まり、上階へ向かって移動するランプをじっと見つめていた。 * 矢部と芽衣は仕事が終わると、スーパーで買い物をして帰ってきた。 買い物袋をキッチンに運ぶ矢部の後ろで、芽衣が玄関で靴を揃える。 矢部は荷物を置くとそのまま自分の鞄を手に、いつものようにネクタイをはずしながら書斎に鞄を置きに向かう。 「……理人、」 芽衣がその後ろを追いかけるが、矢部は「んー?」となんとなく返事をしながら寝室へ入って行った。 「ね、理人」 「なんだー?」 芽衣の呼びかけにのんびり返事が返ってくる。 芽衣は寝室に向かいながら、夕方から気になっていた事を思い浮かべていた。 休憩した後から、矢部の様子がおかしい。 エレベーターで急にきつく抱きしめるし、スーパーでも何か考え事をしている感じだった。 会社でたまに、額にキスをしたりすることも、抱き寄せることもあるのだが、それはいつだって悪戯に瞳を光らせて、楽しげにしている。 だが今日はいつもと違った。 矢部の目はじっと芽衣を見つめ、ほんのわずかに眉が寄っている。 何かを疑っている様な感じではなく、ただただ、じっと芽衣を見つめている。 そんな矢部に芽衣が気付かないわけがない。 しかし芽衣が見つめ返すと何事もない様なそぶりを見せる為、芽衣は気になって仕方がなかった。 「ねぇ、理人。今日、なんか変……ぶっ!」 突然、目の前が真っ暗になり、全身がぶつかる。 跳ねかえされ、後ろによろけた体は矢部ががっちりと捕まえた。 「いたぁーいっ!鼻、潰れた!!」 「まったく、お前はちゃんと前を向いて歩いてるのか?」 矢部が芽衣の鼻をつまんだ。 「歩いてます!理人がいーっつも突然現れるんです!」 「ククッ、それはそれは失礼しました」 「もー!……理人、今日、」 言いかけた芽衣の唇に、矢部がちゅっとキスをする。 「芽衣、まずは飯を食うぞ」 芽衣の体をくるりと反対へ向けた。
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