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「芽衣は、どう思っている?」
矢部の問いに芽衣は瞳をゆらゆらと揺らし手元を見つめた。
「欲しいなら、早いうちに一度検査した方がいい」
芽衣は僅かに眉を寄せた。
自分の手をじっと見つめながら、考える。
私もう、37なんだよねぇ。
この歳で初産の高齢出産。
テレビや雑誌、親友の沙織から情報収集した知識が、頭の中でフル回転する。
「検査って?」
芽衣がちらりと矢部を見ると、矢部はじっと芽衣を見つめたまま口を開いた。
出来ない原因はないか、単なるタイミングが悪いのか。
不妊治療をするかどうか。
芽衣は矢部の説明する話を聞きながら、一度目を伏せ矢部を見上げた。
「理人、お医者さんみたい」
「医者だ」
「……そうでした。なんか病院で説明受けてる気持ちになった」
芽衣は小さく笑い、大きく息を吐く。
そして矢部の目をしっかり見つめると口を開いた。
「先生。私、そこまでして望んではいません」
「…………俺は医者だが、お前の夫だ」
「そうだね。……理人」
「あぁ」
「例えば検査して。両方に原因があった場合は“仕方ない”って思えるかもしれない。けど、どちらか片方に原因がある場合、“私のせいで”とか“貴方のせいで”って、思いたくない」
「……芽衣、」
矢部の瞳がゆらゆらと揺れ、芽衣は矢部の切なげに歪む頬を両手で覆った。
「自然に出来たら、喜んで産みたいと思うし、そうなれば嬉しい」
「っ、」
「子供は支えになるってよく聞くけれど……出来なくても、その分、理人は私が支えるから」
「……っ、」
芽衣は泣きながら、微笑んだ。
「ごめんね。積極的に作ろうとしなくて」
矢部の目が潤み、一粒、涙が零れ落ちた。
「勝手に謝るな。さっき言っただろ。俺は出来ないならそれでも良いと」
「……本当?」
「俺がお前に嘘をつくとでも思ってるのか?」
「思いません。だって理人、言いたい事言いまくりだもん」
「だろ?だから、」
「うん、」
どちらともなく近づき、キスをする。
矢部は芽衣を抱き寄せ、芽衣は首に腕をまわした。
「……理人がいれば、いいよ」
ギュっと抱きしめて呟く。
「……それは俺の台詞だ」
大きな手が芽衣の頭を撫で、そしてひょいと抱き上げた。
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