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「そこで付き合うことになったんだー?」
微笑みはニヤニヤ笑いに変わり、矢部を覗き込む。
矢部は眉を寄せると、小さく息を吐いた。
「俺たちはてめぇと違ってそんなことで付き合うことにはならない」
矢部がムッとした顔でライトを一瞥した。
「大体、」
矢部はそこで一度言葉を切ると、隣の芽衣の頭にポンと手を載せた。
「芽衣はその時、別な男と付き合ってたしな?」
言い方が拗ねている。
芽衣は苦笑を洩らした。
「まぁ、芽衣とはなんだかんだばったり出くわしたんだよ」
「うわ、いっぱい端折ったね」
ライトが笑うと矢部もにやりと笑った。
「出くわす時は大体俺に激突してくるしな」
「……すみません」
「自分からぶつかってきた癖に恨めしそうに俺を見上げてな。鼻をぶつけて赤くして、涙目で。可愛かったんだよ」
矢部が芽衣の頭をポンポンと撫でる。
「あぁ、間違った。“可愛かった”じゃなく“可愛い”だな」
頭を撫でるのはいつもの事で、ふざけて抱き寄せるのもいつもの事だ。
だが、普段人前では言わない台詞をさらりと言われ、芽衣は徐々に顔が熱くなる感覚がした。
「…………もう、そんな事言われる歳じゃないよ」
小さい声で抵抗して目を伏せる。
矢部は照れる芽衣に満足そうに笑みを洩らし、ライトたちはほほえましく思った。
和気あいあいと飲んで食べる。
芽衣はぐるりと見まわした。
仕事の時とは違い緩んだ顔で楽しそうに笑い、気を許しているのが伝わってくる。
家族みたいだなぁ。
芽衣はぼんやりそんな事を思った。
「はぁー、んじゃそろそろ帰りますかぁー」
お開きの言葉はライトがぐっと伸びをしながら。
芽衣は手洗いに立ち、洗面で鏡に映る自分に驚いた。
随分頬も赤いし、飲んだようだ。
ふわふわして、気持ちがいい。
緩む頬を両手で覆っても、外で待っている夫や仲間達を想うとますます顔が緩む。
そのまま外に出れば、目の前に迫った背中に慌てて回避して方向転換したところで、
「ぶっ!」
体の前全部がぶつかった。鼻がツンとする。
よろけた体はがっしりとした腕が引き寄せて、肩を抱く。
芽衣が避けた背中が振り返り、ライトが「おっ?」と目を見開いた。
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