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秋花大学キャンパス
食堂の一角で、皐月芽衣は箸を置くと静かに手を合わせた。
「ごちそうさまでした」
それをじっと見つめていた友人の松村沙織が、待ってましたとばかりに身を乗り出した。
「だから、ね?お願いっ!人助けだと思って!」
「……嫌です」
「どうしてよぉー!いい物件なのよ!?医学部よ、医学部!」
「……医学部だろうがなんだろうが、合コンというものが嫌なの」
「芽衣。普段出会いなんて全然ないんだから、イイ男探しに合コン行こうよぉ」
「誰かと出会うのなんて、“その時”がくれば自然に出逢うものよ」
「合コンも“その時”だと思いまぁす!」
「“敢えて”その時を迎えようとは思いません」
「そんな事言わないでよぉ!私だって本当は、嫌がるアンタを無理やり連れて行きたくはないわよ?」
「だったら諦めて」
「でも、だめなのっ!雄太に芽衣を連れて行くって条件だされちゃったんだからぁ」
言ってしまってから、沙織は慌てて口を押さえたがもう遅い。
食器の乗ったトレイを持ちあげようとした芽衣が、動きを止めて沙織を見た。
「……沙織」
「……はい、」
「アンタねぇ、勝手にそう言う条件呑むの、やめてよねー」
「だってぇ!珍しく雄太の方から合コンの話されたのよ!?いっつも医学部生は忙しいんだとかなんとか言っちゃって、どれだけ私がお願いしても取り合ってくれなかったのによ!?」
沙織は一生のお願いとばかりに両手を合わせ、芽衣を拝むようにした。
「お願いっ!」
「…………」
「……っ」
「…………はぁ、わかった」
「芽衣っ!」
「今回だけだからね」
「ありがとうーっ!!!」
喜ぶ沙織に、芽衣は大きく息を吐きだした。
「それにしても、なんで私が……」
「ごめんね、芽衣ー。雄太のヤツ、私と歩く芽衣見て気に入っちゃったみたいなんだよね」
「……その雄太君という人、私知らないけど」
「雄太はね、私の幼馴染。隣に住んでて、小さいころからずっと一緒でさぁ。高校は違ったけど、大学一緒でビックリ。しかも医学部」
人差し指を立てて話す沙織に、芽衣は「はぁ」となんとなく相槌を打った。
「当日はさ、雄太の事は気にしないで、イイ人見つけたらそっち行っていいから!イケメン連れてこいって言ってあるから!」
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