14年前

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「あー……しばらく何も食えねぇ」 居酒屋から出ると、矢部は首の後ろを擦りながら息を吐いた。 「ねぇ、矢部さん。せめて割り勘にして下さい」 「断る」 「なんでですか!話も聞いてもらったし、それに私、もう社会人でお給料もちゃんと貰ってます。矢部さんまだ学生でしょ」 「女に払わせる趣味はねぇ」 「うわーっ、かっこいい事さらっと言った!」 「はぁ?……ククッ、」 くつくつと肩を揺らしながら、矢部は歩きだしてしまう。 芽衣が隣に追いつくと、矢部の大きな手がポンポンと芽衣の頭の上で跳ねた。 「気持ちだけ貰っておく」 「なんか……ハイ。あの、」 「ん?」 「ごちそうさまでした」 「あぁ」 少し照れくさい。 しおらしくぺこりとお辞儀した芽衣に、矢部はくつりとまた肩を揺らした。 「さて、送っていくが、どこに住んでるんだ?」 「え?あ、この先の秋花マンションです」 「……は?」 「え?」 「いや、……まさか帰る場所が一緒だとはな」 隣で呟かれた言葉に芽衣は数秒考えて、それから矢部を見上げて叫んだ。 「えーっ!?」 「煩い」 「え、え、矢部さんも、ウチのマンションだったんですか!」 「ウチという言い方は少々問題だが、俺も秋花マンションに住んでいる」 「そっかー。ご近所さんだったんですねー」 「近所っちゃ、近所だな。そうとわかればさっさと帰るぞ」 「はーい」 「あー、腹いっぱいで眠くなってきた。これじゃ、勉強できねぇな」 「え、矢部さん、家帰って勉強するんですか?」 「当たり前だろ。来年早々に国家試験だぞ。それにクリアしねぇと医者になれねぇだろうが」 「なるほど」 そういえば、昔そんな話を雄太から聞いたかもしれない。 どれだけ勉強してるんだろうと想像するも、芽衣の想像では追いつかず肩をすくめて終わった。 それほど時間もかからずに、2人はマンションにたどり着いた。 エレベーターに乗り込んで、ボタンを押す。 芽衣は3階、矢部は5階だ。 「俺の家は503だ。よほど困ったことがあったら俺の所に来い」 「ありがとうございます。それじゃあ、」 「あぁ」 エレベータの扉が開き、芽衣が降りる。 扉が閉まる間際、「またな」と矢部がフッと口元を緩め、芽衣もまたコクリと頷いて微笑んだ。
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