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既に何杯目だろうか。
芽衣は目の前のグラスをじっと見つめ、それからぐいと残りを喉に流した。
目が据わってきたのが自分でもわかる。
気がつけば向こうの女子2人は、その向かいに座る男子と随分仲良さげに話しこんでいて、仕舞いに、たった今、1人ずつ席を交代したところだ。
沙織は自分の向かいに座る男と楽しげに談笑中で、その目は確実にロックオンされていた。
ふと自分の目の前に視線を向ければ、沙織の幼馴染の雄太がにこにこと自分を見つめている。
爽やかな笑みがやはり眩しくて目を細めると、雄太はおもむろに手を伸ばし、芽衣の髪を撫でつけた。
「っ!?」
「……髪、絡まってたから」
「あ、あり……がとう」
「いや……って、あ、えっと、ごめん。急に触られたら嫌だよね」
困ったように笑う雄太に芽衣は小さく首を振った。
嫌ではなかった。
むしろちょっとキュンとした。
顔が熱い。もしかしたら顔が赤くなってしまったかもしれない。
だがしかしちょっと待て、芽衣よ。
店員が運んできた新しいグラスを見て、慌てて急ブレーキをかけた。
お酒のせい、お酒のせい。
早まるな、冷静になれ。
芽衣がフッと真顔に戻したため、雄太はキョトンと見つめてからフッと息を洩らすように笑った。
「芽衣ちゃん、やっぱり可愛いね」
「…………は?」
芽衣は突然の褒め言葉に、ぽかんと口を開けた。
「前にね、沙織と歩いてる所見かけたことあったんだけど……」
言ったきり口をつぐんでしまった雄太に、芽衣もまた開けたままの口を漸く閉じた。
こういう場合はどうしたらいいの……かしら?
照れくさそうに頬を染めて視線を落とした雄太に、芽衣もまた照れくさくなり、あわてて腰を上げた。
「ちょっとお手洗い」
「あ、うん」
そそくさと個室をでる。
あー、びっくりした。心臓ドキドキいってる。
ふらふらした足取りだが、頭の中は冴えていた。
そういえば、沙織がそんな事言ってたかもしれない。
連絡先聞かれたら……どうしよう。
あまり知らない人には教えたくないんだけどなぁ。
あ、でも雄太くんは沙織の幼馴染だし、大丈夫かな。
まだ聞かれもしていない事を考えながら、ふらふらと手洗いから出たところで。
目の前が突然真っ暗になった。
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