8年前

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カラン、という少しくぐもったようなドアベルの音を鳴らし、芽衣はオレンジ色の店へと足を踏み入れた。 「芽衣ちゃん、いらっしゃい」 低い声で呼びかけたのは、ここのオーナー。 「山本さん、こんばんは」 「あ、芽衣ちゃん!いらっしゃい」 続いて声をかけたのはバーテンダーの真田で、芽衣はにっこり笑いながらカウンター席の奥に腰掛けた。 ここはBAR『montagne』。 東京に店を出していたオーナーが地元に戻ってきてオープンさせた店は、矢部に連れて来てもらって以来、芽衣も通うようになっていた。 「芽衣ちゃん、いつものでいい?」 「はい、お願いします」 毎日通っているわけではないし、沢山飲む事もしない。 仕事帰りのほんの息抜きに立ち寄っていた。 「今日矢部は?」 真田がシェイカーを振りながらちらりと芽衣を見た。 「……真田さん、それ、来るたび聞きますけど、私に聞かれても分かりませんよ」 「えー?そうなの?だって芽衣ちゃん、矢部の特別でしょ?」 矢部の特別。 その言葉に芽衣は微妙な顔を向けた。 特別って言ったって。 自分は矢部が初めてこの店に女性を連れてきたただ一人らしいのだが、かと言ってそれ以上にはなっていない。 たまにここでバッタリはち合わせるとがあるくらいで、以前、この店に連れて来て貰う前よりは会える回数が増えたくらいだ。 なんとなくそんな事をかいつまんで芽衣が真田に言うと、真田はグラスにカクテルを注ぎながら小さくため息をついた。 「二人はどういう関係?」 「……うーん」 ……うーん。 芽衣は視線をあちこち巡らせながら考えた。 どういう関係って…… 「どういう関係なんでしょうか」 「……おい」 真田は苦笑を洩らしながら、芽衣へとグラスを押しだした。 矢部とはもうかれこれ9年前からの知り合いだ。 付かず離れずのまま、会えば食事に行ったりはしてきた。 だがそれ以上は何もない。 知り合いよりは近く、友人と言っていいのかは気がひける。 「芽衣ちゃんは矢部の事、どう思ってるの?」 「…………へ?」 不意にされた質問に、間の抜けた声が出た。 私、矢部さんの事、どう思ってるんだろう。 これまで全く意識していなかった事に気がつき、それから芽衣は難しい顔でグラスを傾けた。
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