7年前

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約束の5分前。 芽衣は鏡の前を行ったり来たりしていた。 自分ではいつもどおりにしたつもりだけど、緊張していつものメイクがわからないよ。 鏡を覗き込み、首をかしげた。 矢部には既に泣き顔も見られているし、会社帰りの多少崩れた顔も見られていて、今更張り切ってメイクしたって矢部が気付くわけがない。 芽衣は自分に言い聞かせながら、しかしまた鏡の前で髪を整えるようにした。 バッグもいつもの通勤用ではない、可愛らしい小ぶりのもの。 中身を確認しながら、そわそわ落ち着かない自分に苦笑を洩らした。 ピンポーン、 チャイムが鳴った。 バッグを手にぱたぱたと玄関へ向かう。 「はーい、」 返事をしながらコートを手にドアを開けると、立っていた矢部が目を見開いた。 「…………っ、」 「……?矢部さん?」 「あー……いや、」 歯切れの悪い返事に首をかしげ、コートを着ると首にマフラーをかけた。 「いつもと違うから、驚いた」 矢部は言いながら眼鏡を押し上げると、おもむろに手を伸ばし、芽衣が首からかけたマフラーをぐるぐると巻く。 「……ちょ、矢部さん!巻き過ぎっ」 「ははっ、ほら行くぞ」 矢部の腕をぱしぱしと叩くと、矢部は楽しそうに笑い玄関を出ていった。 芽衣はブーツを履きながら、いつもと違うと言った言葉を思い出し頬を染めた。 いつもどおりにしたつもりだったけど、メイクも濃かったかな? 近くにある鏡をちらりと見つつ芽衣も玄関を出ると、矢部が壁に寄りかかり待っている。 「鍵かけ忘れるなよ?」 「はーい」 返事した芽衣にくつりと肩を揺らした矢部は、ポンと一度芽衣の頭に手を置いた。 「そういえば」 「……はい?」 「明けましておめでとう」 「あ、」 ぽかんと見上げる芽衣に、矢部の口の端が持ちあがる。 「明けまして、おめでとうございます!」 ぺこりとお辞儀した芽衣は、 「矢部さん、今年もよろしくお願いします」 矢部を見上げて、にっこり笑った。 「あぁ。今年もよろしくな」 ほら行くぞ、 矢部はひらりとコートの端を翻し歩きだす。 芽衣はその後ろ姿を追い掛けながら、にやける顔を隠すようにマフラーに埋めた。
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