7年前

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芽衣は大虎とじっと見つめ合いながら、一生懸命考えていた。 矢部さんの昔からの知り合いで、会社の社長さんで、矢部さんが産業医として依頼されていて……、 ウチの矢部がお世話になってます……? いやいやいや、ウチの矢部じゃないから。 会社の電話を取ると必ずと言っていいほど言う、“お世話になっております”。 いくらこの人が社長さんでもここは会社じゃないし! 芽衣は3秒ほどでふわりと営業スマイルを浮かべるとぺこりとお辞儀した。 「はじめまして。皐月と申します」 よし、コレだ。 芽衣は心の中でガッツポーズをした。 「……柴崎です。矢部とは昔からの知り合いです」 「俺もだけど、もう何年だろうなー?中学?高校?そんな頃からの付き合いだよなー」 真田はグラスを拭きながら思いだすように宙を眺めた。 「そうだ、それでさっきの話!芽衣ちゃん、矢部とはいつ知り合ったの?」 アイツと居る時は聞けないだろ? 真田はニッと口の端を持ちあげた。 「大学の時ですよ。私が2年で矢部さんは3年の時、かな」 あの頃のことは忘れはしない。だけど、いい思い出だ。 大虎は、微笑んでグラスを傾ける芽衣の横顔をじっと見た。 そんな話は初めて聞いた。 もともと矢部はプライベートをべらべら喋るヤツではないし、自分も聞く方ではない。 仕事だけに生きているヤツだと思っていたが、芽衣という女性の存在があったということに、どこかほっとした。 「10年付き合ってんのな」 「真田さん。その言い方は語弊があります」 「はははっ、」 芽衣が笑う真田をジロリと見ると、大虎がぽつりと口を開いた。 「矢部は、」 「……?」 「“付き合おう”などと敢えてそうすることはしない」 「…………、」 芽衣は大虎の言葉を何度も頭の中で反芻した。 「アイツの大部分は仕事で忙しいが……会いたい人には会えてるみたいだな」 ふっと微笑んで芽衣を見る大虎を見つめながら、芽衣は矢部を思いだしていた。 グラスは2杯目が空になり、芽衣は鞄を手に席を立った。 「芽衣ちゃん、今日はもう帰るのかい?」 「あ、山本さん。ごちそうさまでした」 挨拶をする芽衣の横で大虎も立ち上った。 「皐月さん、送っていく」
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