7年前

14/14
671人が本棚に入れています
本棚に追加
/129ページ
「いただきます」 小さく呟かれた言葉に、芽衣は「どーぞ」と微笑んだ。 「矢部さん、いつも以上に疲れた顔してますね。眼の下、クマできてますよ」 心配そうに覗きこんだ芽衣に、矢部はおにぎりをほおばりながらため息をついた。 「今日は当直明けで帰れるはずだったんだが、入院患者が出てな。カンファレンスだのなんだのって仕事してたら結局この時間だ」 「……うわ、大変だ。それなら一刻も早く寝たいんじゃないですか?」 「ん?まぁ、それもそうだが、」 矢部は芽衣の作ったおにぎり二個をあっという間に平らげると、少し困ったように微笑んで、芽衣の頭にポンと手を載せた。 「俺も月並みに好きな女に癒されてぇんだよ」 ぽんぽん、ゆっくり跳ねる手はいつもより重い。 「……え?」 キョトンとした芽衣の頭を矢部の手が滑り落ち、首元まで来た時、 「……――っ、」 矢部は芽衣に、キスをした。 「こういう事だ」 芽衣の頬がみるみる染まる。 矢部は目を反らすと、眼鏡のブリッジを中指で押し上げた。 「あー……なんだ。お前、アレだぞ。そう簡単に男を部屋に上げるなよ」 目は逸らされたまま、矢部も僅かに顔が赤い。 芽衣は嬉しくてにやけそうになり、唇をかんだ。 「大丈夫です。この部屋に入った事あるのは、一番最初の引っ越し業者さんと矢部さんだけだし」 「……そうか、」 「それに、」 「……?」 「矢部さんは……好きな人だから……いいでしょ?」 「っ!?」 珍しく、矢部の瞳が大きく揺れた。 じっと見つめ合い、そして漸く、矢部が口を開く。 「……本気にするぞ」 「本気ですもん」 矢部の腕が芽衣を引き寄せ、再び唇が重なる。 啄ばむように、それから徐々に深く。 「芽衣、」 途中で呟かれた名前に、芽衣は照れて困ったように微笑んだ。 「矢部さん」 「こら。俺が名前を呼んだんだから、それはねぇだろ」 「あ、やっぱり?」 「恥ずかしがらずに呼んでみろ。俺の名前くらい、ちゃんと覚えてるだろ?」 「……理人?」 「正解だが、疑問形にするな」 「あははっ、」 「芽衣。お前の全部、俺によこせ」 「もちろん。理人にあげちゃいましょう」 二人は笑いながら倒れこむと、激しくお互いを求め合った。
/129ページ

最初のコメントを投稿しよう!