眠りゆくままに

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私はその子猫を『ミー』と名付けた。 彼女が「ミー、ミー」鳴くからである。でも、理由はそれだけではない。 英語で言うミーが「私の」だからだ。 私にとって彼女は大切な存在だった。 彼女を獣医師に見せてあげたが、何も問題ないらしい。 しかし親に捨てられた可能性があるようだった。でなければこんな弱々しい体にはならないだろうとも言っていた。 でも、現実は違ったんだ。 私がその真実を知ったのは獣医師に見せた後の帰り道だった。 そこには悲しそうに手を合わせる人たちがいた。 その人たちに近寄ろうとしたら、彼女は激しく鳴いた。 「あら……。もしかしたら昨日の自動車にひかれた猫ちゃんはあなたの母親だったのかな……」とそこにいた女性は言った。 私は母親の猫のためにもこの子を育ててあげることにした。 しかし、それから一週間後だった。 彼女は急に咳込み始めた。 具合が悪くなったのだろうか、と私は両親に言った。 両親は分からなかった。 だから獣医師に調べてもらった。 「この子はもう……長く生きられません」と言われた。 私はそれを聞いた時、泣きそうになった。しかし、素早くその獣医師は自分の発言を否定した。 「すみません、冗談です。成長する子猫になくてはならない症状なんです。ほら、もう落ち着いてますよ」 「じゃあ……」 「もちろん、まだまだ生きてられますよ」 獣医師は笑顔でそう答えた。 私と彼女はその後も悲しい時も楽しい時も過ごせる時はいつも一緒だった。 いじめられたことにも彼女を見ると、すっかり気が晴れてしまった。 それだけではなく、両親の助けでいじめは止まった。 そう、あれからもう十一年は経った。 彼女は私の両手に抱かれている。 初めて会った時よりも重く、体が大きい。 毛並みも綺麗に生えている。 私は彼女を土の中に置いた。そのまま土をかぶせてあげる。 私は両手を重ねた。 「ありがとう」でも「ごめんね」でもない。 ましてや「さよなら」でもない。 彼女にいう言葉はこれである。
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