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「あいつがただの小物だとしたら、記憶が無いのも説明がつくよ。」
翌日、店の隅でひたすら落ち込む焼き物のタヌキを尻目に、柊平と夜魅は作戦会議に入った。
気にするなと言ってもあの調子で、今日もさっぱり役に立たない。
「なんで記憶がないんだ。」
「たぶん、何か強い力で吹っ飛ばされてあの中に入ったんだ。その時のショックで記憶もとんじゃったんじゃないかな。」
四畳半で寛ぎながら夜魅が言う。
「強い力って?」
「例えば、撫で斬りを使う時みたいな。」
柊平は庭を挟んで向いに見える、撫で斬りのある建物になんとなく目が向く。
「この辺で、あの刀みたいな力を発散するようなものってあるのか?」
「あるかもしれないけど、使い手が居るのは稀だろうね。」
「例えば、五百蔵 悠真とか?」
夜魅は少し驚くが、すぐに首を振る。
「悠真はあの手の道具は使わないよ。」
「真面目な話さ、あいつ何者なんだ?」
何だかんだでうやむやのままの疑問を、柊平は改めて夜魅に聞く。
「悠真は、コマが言ってた通り付喪神が見えるんだよ。子供の頃からそういう体質らしくて、今は先代のやり残した仕事をしてる。」
「それ以外も見えるのか?」
「見えると思うよ。初めて会ったとき、かなり警戒されたから。良いものも悪いものも見てきたんだと思う。」
夜魅の話に、なんとなく柊平は納得する。
悪いやつは嘘をつくからなんて、普通に学生をやっていたら日常会話には出てこない。
夜魅もそうだが、妖怪はなかなかに気まぐれだ。
過去に何かしらあったのだろうと思わざるを得なかった。
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