69人が本棚に入れています
本棚に追加
柊平はバスを降りると、祖父の店がある緩い坂道を下る。
左手には先日、幻の彼岸花畑となったあの乾いた空き地。
祖父の店はそこから少し先になる。
見通しのいい生活道路で、下の国道も、さらにその下の住宅街までもがよく見えた。
もちろん、祖父の店の入口もよく見える。
そこには、いつも店先の座布団で寝ている夜魅が、珍しく店の前に座っていた。
夜魅は柊平の姿を見つけると、早く来いとばかりに尻尾を大きく振って見せた。
「遅いよ。」
慌てる様子もなくやって来た柊平に、夜魅が不満げに言う。
「珍しいな。日向ぼっこか?」
「その辺の猫と一緒にしないでくれる?バカなこと言ってないで、中見てみなよ。」
夜魅はすこぶる不機嫌そうに、戸の横にある窓を覗けとアゴでしゃくった。
夜魅が出入りに使うその木枠の窓は薄く開いている。
柊平は言われたままに、昨夜焼き物のタヌキを招き入れた時に外の様子を見るのにも使った窓を、今度は外から覗いた。
天井の低い店内は薄暗く、昨日のままの場所に焼き物のタヌキは立っていた。
様子が違うのは、そのタヌキから一番近い木の棚が、バッサリと裂けて倒れている。
そこにのっていた古い雑貨は散乱し、値打ちの分からない小ぶりなツボは真っ二つになって転がっていた。
「何があったんだ?」
柊平は声を潜める。
「散歩から帰ったらあの状態だった。」
「お前…、客をほったらかして散歩に行ったのか?」
「日課は変えられないよ。」
何でもないことのように、夜魅はしれっと言った。
最初のコメントを投稿しよう!