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悠真が手早く鍵を開け、力一杯古い引き戸を引く。
ガラガラと派手な音が上がるのと同時に、柊平は振りかぶって石を投げた。
カッコーンっと小気味よい音が高らかに響く。
焼き物のタヌキの耳の欠片が、ころりと店の床に落ちた。
「なんですか?!なにするんですかぁー?!」
その後に聞こえてきたのは、情けないタヌキの悲鳴だった。
「決まりやな。」
涙は出ないが、おいおい泣いている焼き物のタヌキを見ながらコマが言う。
「なんか、もっと平和的な方法なかったのか。」
やってしまってからでなんだが、柊平は号泣するタヌキに申し訳ない気持ちになる。
「悪いやつほど嘘をつきます。しかもすでに記憶がないと言っている。本性を知るには、手荒な方が手っ取り早い。」
悠真が言うと少し意外な気もするが、最もな意見だった。
「悪い。ありがとう。」
「いえ。じゃあ、僕らは帰ります。」
悠真は、預かった鍵を柊平に渡す。
「ほなな。」
コマは悠真の後を追って歩いていった。
日が暮れるのはすっかり早くなった。
店の前の緩い坂道に、ひとつ、またひとつと街灯がともりはじめていた。
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