69人が本棚に入れています
本棚に追加
「ちょっと待て。じゃあ、あの焼き物タヌキが記憶喪失な原因て、オレじゃないのか?」
周囲にそれらしい力を発散するものはないが、吹っ飛ばされて記憶のない妖怪。
現れたのは、前回百鬼夜行路を開いてすぐ。
「うーん。可能性が無いとは言えないけど…。」
「とりあえず、あの空き地周辺を探してみるか。」
「小物なんだから、切り離して百鬼夜行路に連れて行ったらいいじゃん。」
面倒くさそうに夜魅が言う。
「じゃあ、後に残るであろう焼き物のタヌキの置物はどうするんだ。」
どう考えても、どこかのお宅からやってきたとしか思えない。
特別騒ぎになっている様子はないが、夕方ほんの少しいるだけの柊平には、ご町内の噂までは聞こえてこないだけかもしれない。
「あのぅ。」
さっきまで店の隅っこにいた焼き物のタヌキが、上がり口まで来て、おずおずと口を開く。
「昨日、石を投げられてから、ちょっとづつ記憶らしきものが戻ってきたのですが。花が咲いておりました。薄桃色の可愛らしい花が。」
「花?そのタヌキがあった場所にか?」
「おそらく。最後に見たのは、この目の穴からですが、わたしはそこに居たような気がします。」
柊平には秋のこの時期に咲く、薄桃色の花に心当たりがない。
「夜魅?」
起き上がり伸びをする夜魅は、どこかへ行く気らしい。
「柊平、行くよ。」
夜魅はそう言って、戸を開けるように柊平を急かした。
最初のコメントを投稿しよう!