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夜魅が柊平を連れてきたのは、店の前の坂道を下った先、国道沿いにある最近建て直したばかりのお寺だった。
夕焼け空にぼんやりけむるお寺の境内は、この世もあの世も曖昧な感じがして心許ない。
「中身が小物なら、器に力がある。なら、こういう場所に縁のある場合が多いんだよ。」
夜魅は立派な山門をくぐって、さっさとなかに入っていく。
壮大朗も言っていたことだが、もしそうなら、この界隈には寺社仏閣の類はここしかない。
柊平もその後に付いて山門をくぐる。
そう広くはない敷地に、大きな銀杏が1本。
境内を黄金に染めている。
もう秋も終わりに近い。
掃き清めても、この大きな木なら、すぐに辺りを染めてしまうのだろう。
「柊平、あそこ。」
境内の中ほどまできたところで、夜魅が社殿のそばを視線で示す。
「彼岸花?」
先週よく似た形の花の幻の花畑を見た。
しかし、その色はあの日の赤とは違い、薄桃色をしている。
「彼岸花の仲間だよ。よその国の生まれだから、自生はしてないんだけどね。」
積もる銀杏を踏みながら、その花に近づく。
「柊平が言うように、こないだのが原因なら、似たようなやつが関わってるんじゃないかと思って。」
そう言う夜魅が、花の前で柊平を見上げる。
よく見る彼岸花より少し大きめなその花の上に、小さなタヌキらしきものが見える。
こないだの紅白狐は手のひらサイズだったが、こちらは親指サイズ。
「タヌキだな。」
「タヌキだね。」
柊平は夜魅の隣にしゃがみ込んで、小さなタヌキを見た。
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