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その奇妙な店は、緩やかな坂の途中にある。
古い木造建築で平屋建て。
店の前を流れる水路は苔むした煉瓦積み。
その水路の上に架った、短いコンクリートの橋を渡った先に、店の入口がある。
店主はきっと、店の外観とよく似た古狸のようなジイ様。
誰もがそう思って店の前を通り過ぎるだろう。
しかし、店の奥には、学生服姿の少年がぼんやりと座っている。
百鬼 柊平。
現在、形式上、この店の主である。
「ねぇ、柊平。壮大朗は帰ってくる気、あるのかな?」
いつものごとく、上がり口の板間に置いた座布団に座った夜魅が言う。
「縁起でもないこと言うな。あれだけ看護師さんにデレデレ出来るんだ。すぐ帰ってくるだろ。」
週明け、学校帰りに1度病室を覗きにいったが、祖父はそれはもうご機嫌だった。
柊平に言わせれば、もはや本当に病気なのかどうかも疑わしい。
「そう?ならいいけど。人間はすぐに死んでしまうからねぇ。」
夜魅は金色の目を細めて柊平を見上げる。
この夜魅という黒猫、ただのおしゃべりな猫だと思っていたら、猫又という妖怪だった。
あれから少し調べてみたが、猫又とは長く生きた猫が最終的に妖怪になったものらしい。
妖怪になるほど長生きした夜魅にしてみれば、人間は短命かもしれない。
「お前、日中は尻尾1本しまっとけよ。」
柊平に正体をバラした日から、夜魅は昼間でも二本ある尻尾を出しっぱなしにしていることが増えた。
「えー。別に誰も来ないからいいでしょ。」
「そうとは限らないだろ。」
一応、平日の昼間は骨董品屋である。
古本も扱っているので、ごく稀に人の出入りがある。
ごく稀に。
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