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翌日。
あらかじめ祖父の店に泊まることを両親に伝えた。
お馴染みの母お手製の重箱夕食を持たされ、いつもの古びた引き戸を開ける。
「お帰りなさいませ。柊平さま。」
待ち侘びたようににじり寄ってくる置物は若干怖い。
「柊平、遅い。」
心なしかウンザリした顔の夜魅が、座布団ではなく四畳半の隅っこにいる。
「どうしたんだ。そんな隅っこで。」
「今日1日中、そいつ、柊平はまだかまだかって煩いんだもん。」
焼き物のタヌキを避けて、柊平は四畳半のちゃぶ台の上に抱えてきた重箱を置く。
振り返ると、上がり口ぎりぎりまで、また焼き物タヌキがにじり寄ってきていた。
「決行は今日の深夜だ。それまでは大人しくしてろよ。」
柊平にそう言いつけられると、焼き物のタヌキはカクンとうなづいた。
「夜魅、器と中身を切り離すのはどうやるんだ?」
「今回の場合は撫で斬りを持てば、たぶん繋ぎ目が見えるよ。そこを切り取る。」
「灯りはどうするんだ?こないだのじゃ大きいだろ。」
夜魅はチロリと柊平を見る。
「柊平は、今回は百鬼夜行路は要らないと思ってるんじゃないの?」
そうだといいなとは思う。
「念のためだよ。」
夜魅はふぅんと目だけで言う。
「あの箱が、必要なサイズを用意してくれるよ。火種もね。」
撫で斬りと一緒に保管している菓子箱サイズの木箱。
ただの古い箱だと思っていたが、あれも何やら怪しい道具らしい。
便利だな、と、もう驚かない自分に驚きながら、柊平は夜を待った。
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