姿

22/26
前へ
/27ページ
次へ
翌日。 あらかじめ祖父の店に泊まることを両親に伝えた。 お馴染みの母お手製の重箱夕食を持たされ、いつもの古びた引き戸を開ける。 「お帰りなさいませ。柊平さま。」 待ち侘びたようににじり寄ってくる置物は若干怖い。 「柊平、遅い。」 心なしかウンザリした顔の夜魅が、座布団ではなく四畳半の隅っこにいる。 「どうしたんだ。そんな隅っこで。」 「今日1日中、そいつ、柊平はまだかまだかって煩いんだもん。」 焼き物のタヌキを避けて、柊平は四畳半のちゃぶ台の上に抱えてきた重箱を置く。 振り返ると、上がり口ぎりぎりまで、また焼き物タヌキがにじり寄ってきていた。 「決行は今日の深夜だ。それまでは大人しくしてろよ。」 柊平にそう言いつけられると、焼き物のタヌキはカクンとうなづいた。 「夜魅、器と中身を切り離すのはどうやるんだ?」 「今回の場合は撫で斬りを持てば、たぶん繋ぎ目が見えるよ。そこを切り取る。」 「灯りはどうするんだ?こないだのじゃ大きいだろ。」 夜魅はチロリと柊平を見る。 「柊平は、今回は百鬼夜行路は要らないと思ってるんじゃないの?」 そうだといいなとは思う。 「念のためだよ。」 夜魅はふぅんと目だけで言う。 「あの箱が、必要なサイズを用意してくれるよ。火種もね。」 撫で斬りと一緒に保管している菓子箱サイズの木箱。 ただの古い箱だと思っていたが、あれも何やら怪しい道具らしい。 便利だな、と、もう驚かない自分に驚きながら、柊平は夜を待った。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

69人が本棚に入れています
本棚に追加