69人が本棚に入れています
本棚に追加
吐く息が白く流れる。
柊平は、撫で斬りを自分のマフラーで包んで左手に持つ。
月が昇って小さくなった頃、焼き物のタヌキを引き連れて昨日のお寺に来ていた。
あの時、老婦人が言っていたように、深夜にも関わらず山門は半分開いたままにされている。
「物騒ですね。こんな時代ですのに。」
焼き物のタヌキがポツリと言う。
そしてそのまま、先に中へ入っていく。
足元には、引きずったような足跡が銀杏を踏み分けて続いている。
柊平と夜魅は、その足跡を崩さないように避けてあとを追った。
タヌキノカミソリの咲く境内の1角で、焼き物のタヌキは歩みを止める。
「お前は、どうしたい?」
柊平は焼き物のタヌキの背中に訊く。
夜魅はタヌキの足元で、花を見ていた。
「お願いします。百鬼夜行路へお通しください。」
数日前、訪ねて来た時と同じセリフを焼き物のタヌキは繰り返す。
空洞の瞳に映るのは、もう枯れるしかないかつての住処。
見上げる仲間達の心配そうな顔は、やはり切ない。
夜魅は、その仲間達を守るように自身の体で、花達を柊平から遮る。
柊平は撫で斬りを抜くと、マフラーごと鞘を足元にそっと置いた。
左手で柄の下の方を握り、右手は鍔の際で支えるように握る。
暗いお寺の境内。
遠い月明かりの下でも、柊平の目にはハッキリ見える。
焼き物のタヌキの背中には、まるで中身を避けるように頭から足を結ぶ半円の継ぎ目が、ゆらゆらと浮かび上がっていた。
踏み込んだ足元で、銀杏の葉がにわかに舞う。
振り下ろされた撫で斬りの一閃は、綺麗な弧をなぞり夜の闇に消えた。
最初のコメントを投稿しよう!