姿

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吐く息が白く流れる。 柊平は、撫で斬りを自分のマフラーで包んで左手に持つ。 月が昇って小さくなった頃、焼き物のタヌキを引き連れて昨日のお寺に来ていた。 あの時、老婦人が言っていたように、深夜にも関わらず山門は半分開いたままにされている。 「物騒ですね。こんな時代ですのに。」 焼き物のタヌキがポツリと言う。 そしてそのまま、先に中へ入っていく。 足元には、引きずったような足跡が銀杏を踏み分けて続いている。 柊平と夜魅は、その足跡を崩さないように避けてあとを追った。 タヌキノカミソリの咲く境内の1角で、焼き物のタヌキは歩みを止める。 「お前は、どうしたい?」 柊平は焼き物のタヌキの背中に訊く。 夜魅はタヌキの足元で、花を見ていた。 「お願いします。百鬼夜行路へお通しください。」 数日前、訪ねて来た時と同じセリフを焼き物のタヌキは繰り返す。 空洞の瞳に映るのは、もう枯れるしかないかつての住処。 見上げる仲間達の心配そうな顔は、やはり切ない。 夜魅は、その仲間達を守るように自身の体で、花達を柊平から遮る。 柊平は撫で斬りを抜くと、マフラーごと鞘を足元にそっと置いた。 左手で柄の下の方を握り、右手は鍔の際で支えるように握る。 暗いお寺の境内。 遠い月明かりの下でも、柊平の目にはハッキリ見える。 焼き物のタヌキの背中には、まるで中身を避けるように頭から足を結ぶ半円の継ぎ目が、ゆらゆらと浮かび上がっていた。 踏み込んだ足元で、銀杏の葉がにわかに舞う。 振り下ろされた撫で斬りの一閃は、綺麗な弧をなぞり夜の闇に消えた。
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