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焼き物のタヌキから弾き出された親指タヌキを、夜魅は尻尾でキャッチする。
「別れの挨拶をするなら、早く。」
夜魅はそう言うと、タヌキを頭の上にのせる。
親指タヌキ達は、さわさわと何やらやり取りをしていたが、柊平には聞き取れなかった。
撫で斬りを鞘に収めると、マフラーは首に巻いた。
刀はすぐ使う。
タヌキの気配を考えると、余分な手間は少ない方がいいと考えた。
「行けるか?」
別れが済んだらしい親指タヌキを、夜魅が頭に乗せたまま柊平の傍へやってきた。
見ると、親指タヌキは、銀杏の葉っぱで作られた包を背中に背負って旅支度をしている。
「みんなに貰ったのか。」
柊平の言葉に、夜魅の頭の上のタヌキは嬉しそうにうなづいた。
「柊平、早く。誰か起きてきたらややこしいでしょ。」
急かす夜魅と連れ立って、半分開け放しの山門を出た。
焼き物のタヌキの置物だった時のように、親指タヌキはもう喋らなくなった。
元の姿の親指タヌキのささやかな力では、人間に言葉を伝えるのは難しい。
柊平にも、そのささやかな言葉を聞き取る技術はまだない。
人気のない深夜の道をただ黙って、百鬼夜行路の入口のある祖父の店まで帰って行った。
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