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結局、あれからどんなに質問を重ねても焼き物のタヌキは自分のことを思い出せなかった。
そこで、大人しくしているのを条件に、祖父宅にあのまま置いてある。
夜魅がいるからというのもあるが、撫で斬りがあるあの家は、やはり少し独特だった。
玄関以外からは、部外者は入ることができないらしい。
並木の銀杏の葉が家の塀沿いに溜まっているにもかかわらず、一切敷地内にないのである。
風が吹けば葉っぱの1枚くらい入ってくるだろうが、あの家にはそれがない。
そして、ただ焼き物のタヌキの足が短いから入れないのだと思っていたが、タヌキには店先の土間から上がり口の板間より先へは進もうとしても進めないと言う。
というわけで、正体不明のため外に出すわけにもいかず、大した悪さも出来なさそうなので店にそのままにしているのだった。
柊平は翌日改めて祖父の病室を訪れた。
もしかしたら、焼き物のタヌキの事も、何か解決策があるかもしれない。
「じいちゃん、入るよ。」
柊平は、開け放しの病室の引き戸を軽くノックして、そう声をかけた。
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