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祖父は病室のベッドの上体を少し起こし、ゆったりと体を預け窓の外を眺めていた。
黄色い銀杏並木が、晴れた空に眩しい。
「柊平か。よぅ来たな。」
病室に入ってきた柊平を、壮大朗が大きな笑顔で出迎える。
「今日は看護師さん捕まえてないんだな。」
ベッド脇に丸椅子を引き寄せ座る。
「なんじゃ、看護師目当てか。柊平も年頃じゃの。」
「違うから。」
ホッホッホと笑う壮大朗の茶化しを、柊平は一蹴した。
「ふむ。何かあったかの?」
こんな話をする時、個室は都合が良い。
今思えば、大部屋を断固拒否した祖父は、柊平が相談に来ることはあらかじめ分かっていたのだろう。
「あの家って、入るのに条件でもあるのかなって。」
家を避けて散る銀杏。
四畳半に上がれない焼き物のタヌキ。
前回の紅白狐は問題なかっただけに、不思議なのである。
「そうじゃのぅ。条件云々というよりは、あの家は一種の境界線のような役目を担っておる。それゆえ、外側と内側を区別するようではあるのう。」
なんでも無い事のように壮大朗が言う。
なら、焼き物のタヌキは何故、座敷に上がれないのか。
「昨日、記憶喪失の焼き物のタヌキが訪ねてきたんだ。家には入れたけど座敷に上がれない。何かアイツに原因があるのかな?」
「ほぅ。焼き物のタヌキのぅ。」
壮大朗は、アゴ下に伸ばした白ひげを撫でながら、ベッド脇に座る孫をしばし眺めた。
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