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壮大朗は検温の時間がまだ遠いことをチラリと確認する。
このまま話を続けても問題なかろう。
「夜魅はなんと言っとる?」
「危なくはないと思うけど、よく分からないって。よく分からないから、招き入れるのは反対だと言ってたな。」
「お前はどう思う?」
「夜魅やこないだの紅白の狐とは違う気がする。なんて言うか…気配がブレてるような感じだ。」
柊平は、昨夜タヌキを見て感じた違和感を伝えた。
店の留守を頼んで数日、淡々と答えるその言葉に壮大朗はにわかに感心する。
「ふむ。まず夜魅が渋ったのは、その焼き物のタヌキが依代かもしれんと思ったからじゃろう。」
「依代?」
聞きなれない言葉に、柊平が首を傾げる。
「使い方は色々じゃが、悪さをする妖怪を閉じ込めるのに使うことが多いかのう。」
そう言うと、壮大朗は柊平の顔色を伺う。
怯えるかと思ったが、柊平はすぐに話の先を促した。
「他には?」
「そうさなぁ、付喪神がおる可能性もある。」
「付喪神?神様がいるかもしれないってこと?」
今度は少し焦った様子で訊く。
雑に扱ったりはしていないが、丁重にもてなしたわけでもない。
「神様をしとる場合もあるが、その辺をウロウロしているのは妖怪と思ってよい。」
柊平は少しホッとする。
なんとなくだが、神様という響きは怖い。
「他もある?」
「これは稀にじゃが、器自体に力があって、何かの拍子にその中に入った妖怪が出られなくなっているということもある。今のところ考えられるのは、それくらいじゃの。」
壮大朗はそう言い終えると、柊平にお茶を淹れてくれるように頼んだ。
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