第1章

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 NO,112684B:ロングコース希望  性別、男性:30代~40代   健康状態:チェックレベル3    声紋に微弱な震えを感知。    精神面のサポートが必要な可能性有     →より詳細なデータ分析を行いますか?          【 YES / NO 】  それほど難しいクライアントにはならないだろう。NOをクリックして言葉を返す。 「ダメだなどとおっしゃらないでください」 「お前に何がわかる! 俺は……ずっと、ずっと一人っきりで生きてきたんだ! このつらさが、寂しさがわかるのか?」 「おやすみコールセンターはいつでもあなた様を」 「うるさい! 誰も俺のことを見ていやしないんだ。ちくしょう。ちくしょう……」  私の言葉をさえぎって怒鳴ったクライアントが泣き始めた。ひとしきり泣くと少しずつ声紋の震えの幅が小さくなっている。いい傾向である。 「お気持ちお察しいたします。おっしゃりたいことは何でもお話してください」 「ああ、そうだな。……大きな声をあげてすまなかった。でもな、俺はもうおしまいだ。一人っきりのまま、眠るように消えることはできないのかな?」 「こちらはお客様が消えてしまうことを推奨する場所ではございません。お客様に快適な睡眠をご提供する場所でございます」 「なぁ、あんた。こんな俺がどうやって生きていけばいい? 教えてくれ」 「ではまずお客様のことをいくつかお伺いしてもよろしいでしょうか?」  マニュアルに従い項目ごとに分けられた質問を投げかけていく。ひとつひとつの質問に答える男性の声紋が穏やかな波へと変わっていった。  次第に男性の泣き声が穏やかなものに変わっていく。緊張が解けているのだろう。声紋の揺れ幅も安定し始めた。もう少しだ。
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