第2章

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 ディスプレイにおやすみコールの通知が現れた。声紋認識センサーを起動させて手早く通話ボタンをクリックする。 「お電話ありがとうございます。こちらはおやすみコールセンターです」 「あの、私……薬を、沢山飲んじゃって……。もう死んじゃうのかな……」  薬。死んじゃう。  キーワードを入力し声紋認識センサーを起動させた。  NO,127654A:ロングコース希望  性別、女性:20代~30代   健康状態:チェックレベル4   声紋に震えを感知。精神的、   肉体的異常発生の恐れ    →より詳細なデータ分析を行いますか?        【 YES / NO 】 「お薬をお飲みになったのですか?」  YESをクリックし発信元の調査をスタートさせる。発信場所は都内のマンションの一室。女性の一人暮らしのようだ。女性の名前や病歴などがデータベースから送信されてきた。 「はい、色々なものを……沢山……わたしぃ」 「お飲みになったお薬の名前はわかりますか?」 「えっとぉ……」  イヤホン越しに呂律の回らない声が薬の名前をいくつもあげる。つっかえつっかえの聞き取りにくい言葉を耳で拾いながらデータに入力していく。  種類。量。経過時間。  おおよそのデータを作成すると通話を続けながらデータを救急センターに転送した。  意識の混濁レベルからしてこのまま眠ってしまうだろう。薬物の過剰摂取による死亡の危険はない。だが吐瀉物による呼吸困難からの危険が考えられたのだ。転倒にも注意しなくていけない。 「もう、クラクラして、フラフラで……」 「ゆっくりとベッドに横たわってください。大丈夫です。ゆっくりと」 「わたしぃ……もうわかんなくなっちゃってぇ……」 「大丈夫です。おやすみなさい」  救急センターの車両がクライアントの家に向かったことを確認し電話を切る。もう朝の五時になっている。退社時刻だ。報告書をデータ転送し引き継ぎを終えると私は職場を後にした。
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