第3章

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第3章

「お電話ありがとうございます。こちらはおやすみコールセンターです」 「君は非常に優秀なオペレーターのようだ」  翌日の勤務。おやすみコールセンターに電話をかけてきた男性が開口一番にそう言った。初めてのケースだ。声紋認識センサーを見る。  NO,165980B:ロングコース希望  性別、男性:20代~30代    健康状態:良好   精神状態:安定    →より詳細なデータ分析を行いますか?         【 YES / NO 】  「ありがとうございます」 「ありがとうございます、か。それもマニュアルに書かれている受け答えかな?」 「本日はおやすみコールのご利用でよろしいでしょうか?」  私はセンサーのYESをクリックして男性の言葉を無視する。こちらの業務を優先的に進めることにした。  時折性的な目的や嫌がらせでコールセンターを利用するクライアントもいる。彼もそういった目的である可能性がある。そういった相手には冷たい対応が一番効果的だ。 「おやすみコールか。ぜひお願いしたいね。優しく頼むよ」 「おやすみなさいませ」 「ああ、とっても穏やかな気持ちになる声だね。ではきつい口調では言えるのかな?」 「……おやすみなさいませ」 「ふふふ、なるほどねぇ」  男性はさも楽しそうに含み笑いを漏らした。これは長い通話になるかもしれない。業務が滞るのは好ましくない。詳細データへ目を通しながら男性の言葉に返事をしていくことにする。 「ご満足頂けましたでしょうか?」 「もう少し君とお話したいんだ。いいかな?」 「もちろんでございます」  詳細データが表示された。男性の住所を突き止めることに失敗と書かれている。これも初めてのことである。面倒だがうまく対応すればひとつのモデルケースになる案件かもしれない。  イレギュラーがあるからこそマニュアルも強化されていく。
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