643人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
もう随分前のこととはいえ、別れた相手と仕事のパートナーにするなんて普通は考えられない。
けど、そんな理由だったら、どうして私を秘書にしたのか少しは納得も出来る。
トクンッ…
小さな胸の高鳴りを感じてしまう。
のに、
ズキッ…
胸に小さな痛みも走る。
あれ……?
ちょっと泣きそうになりそうなのは、胸の痛みのほうが残っているから?
秘書になれて本当は嬉しい。
でも、
あの頃の関係には戻れないことが哀しい。
〝私が心の中で本当に望んでいるのは仕事のパートナー以上の……”
―…ダメ。
ダメダメ。
自分から壊してしまった癖に、また、なんて贅沢な事を考えているのだろう。
「あの……」
「何?」
「カクテル……美味しそうでした……」
「学生の頃、バーテンのバイトしてたからな」
「え……バイトって……雇われて時間給とかで労働してたってことですか……?」
「何だよ。その反応」
「だって……」
〝若槻総支配人がアルバイトだなんて想像できなくて……働かなくても十分優雅な学生生活を送れるじゃないですか……”
って、口から出てしまいそうだったけど止めた。
いずれ家業を継ぐかもしれない可能性を考えた上での経験なんだろうなって思ったから。
「寝酒に一杯作ってやろうか?」
「えっ」
「どうせ俺は素直にお前を帰す気はないからな。反抗されると尚更服従させたくなる」
「服従って……っ」
最初のコメントを投稿しよう!