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すると、
直ぐ近くで大きな溜息が聞こえた。
しかも、
「悪かったな」
「え……」
若槻総支配人は謝罪の言葉と共に、また、溜息。
「希穂が皺を気にして脱いだ服なら、そこのクローゼットにかけてある。俺は向こうに行ってるから着替えろよ」
「は、はい……」
さっきとは違って突き放すような冷たい態度。
そんな風に接されると、私、何か気に障ることでもした?って気になってしまうじゃない……
「あの、若槻―…」
「つい昔の感覚で希穂に甘えすぎた。過去の誤解は解けたとはいえ、俺達はもう職場での繋がりしかないもんな」
「そう……ですけど……」
「お前、俺の事、嫌いだろ?」
「えっ!?」
嫌い!?
何でまた、いきなり好き嫌いの話に飛ぶの!?
大体、私が若槻総支配人のこと嫌いなわけないじゃない!!
ちょっと気を緩めてみれば、未練タラタラの過去引きずりまくりの別れても大好きなヒトだもの。再会してみたら私みたいな一般ピープルじゃあ更に手の届かない存在のヒトになっちゃってるから必死に溢れ出る気持ちをセーブしてるもの。
好き。
やっぱり大好き。
だけど、この本音を簡単に晒せるわけない。
「嫌いじゃ……ないです」
「は?」
「若槻総支配人とはまだ短い期間しか仕事をしていないですけど、尊敬出来る上司だなって……思います。だから、私、グランドミューズの社員として、秘書として、精一杯務めさせていただきたいです」
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