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3 燈子の日常
一方、秋人が出勤した後の大神家では、先程の余韻からようやく回復した妻の燈子が、いつもの一時間遅れで洗濯物を干していた。
_ああ。
北九州楽しかったなあ_
テラスにパンツを干しながら、霞がかった空を見上げると、燈子は彼の地に思いを馳せた。
_気さくな近所のオクサマや、お祭りで意気投合した的屋のオジサンete…
九州の、彼の実家の皆さんも、皆私を可愛がってくれたし、彼のお姉さんにも色んなコトを教わった。
そして何よりダンナサマ。
本当に、たくさんたくさん愛してくれて___
「やだっ、恥ずかしっ」
燈子は握っていた彼のパンツで顔を被った。
結婚前、燈子と秋人は同じ会社の同じ課の、上司と部下に過ぎなかった。
燈子が新人で入社して3年間というもの、超パワハラ上司として常に自分の上に君臨し続けた男、それが彼。
毎日のように怒鳴られ続け、色っぽい思い出などは皆無だった筈だった。
それが……
忘れもしない2年前の2月の終わり。
北九州支社長に栄転が決まっていた彼から、突如昼休憩の屋上に呼び出しを食らった。
酷く沈痛な面持ちで声をかけられたもんだから、てっきり
『you are fired!! (オマエはクビだ)』
とでも言われるもんだと思っていたら…
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