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ある日のことでした。
一人の女の子が海辺へやってきました。
その子は何故かベスを避けませんでした。
「どうしてこんなところにいるの? このテントはアナタのおうち?」
女の子が不思議そうに聞きます。
ベスは応えませんでした。
するとぐったりとしているベスの隣に座り、その顔を覗き込みました。
「そっか、眠いのね? よしよし、おやすみ」
そう言って女の子はベスの頭をそっと撫でました。
胸を突くようなとても懐かしい気がしました。
忘れもしないと思っていたのに忘れてしまっていた感覚でした。
その手はおじいさんと同じ手でした。
しわくれてもいないし、節くれてごつごつもしていない、ベスの頭を包み込むほど大きくもありませんでした。
けれどもそれは暖かく優しくベスを安心させるおじいさんと同じ手でした。
懐かしさが安らぎに変わります。
ベスはゆっくりとまぶたを降ろしました。
潮騒が聞こえます。
海猫の鳴く声も冷たい潮風も女の子の手もすべての音や感覚が、細波にさらわれてだんだんと遠ざかっていきます。
【End.】
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