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暫くして時計を見た直人は、大分深い時間になってしまっていることに気が付き、そろそろ帰りましょうか、と彼女を促した。だが彼女は、直人の目を見て、意外な言葉を口にした。
「ううん。もうちょっと二人で話したい。直人さん家、行ってもいい?」
強い力を持った視線に、心臓を掴まれる。完全に捕らえられてしまった彼の首は、縦にしか動かなかった。
そのまま二人は、直人のアパートへと向かった。店に近いという理由で選んだ家なので、徒歩で行ける距離だ。その間、彼女は酔ってしまったからと、直人の腕に自分の腕を絡ませていた。これまでの言動からして、そんな簡単に酔って隙を見せるような女には見えない。だが、きっと裏がある行動なのだと自分を戒めても、彼女に心が引き寄せられていくのを止められなかった。
家に入って、部屋の明かりを点ける。すると後ろから、直人さん、と彼女が呼ぶ声がした。
「私のこと、暫くここに置いてくれない?」
ドアの縁に手を置いた彼女は、上目遣いでそう言った。真顔な所を見ると、どうやら冗談ではないらしい。
「え、急に何言って……」
余りにも唐突な頼みに、直人は驚いて言葉を上手く紡げない。
「勿論、タダとは言わないから」
彼女は直人が言い澱んでいる隙にそう言葉を継ぎ足し、着ているワンピースのストラップに手を掛ける。そして直人が訝しげに眉を顰める間に、そのワンピースを脱ぎ捨てた。黒い下着と滑らかな蜂蜜色の肌が、目の前に晒される。
ここに置いて欲しい。タダとは言わない。服を脱ぎ捨てた彼女。
「麗華さん……」
その意図は理解出来たが、どうすればいいのか分からずに、直人は戸惑いの視線を彼女に投げた。ただ確実に、胸は熱くなっている。
「麗華じゃないよ。ほんとの名前は美嘉。佐伯美嘉」
彼女は直人から視線を逸らさずに、ゆっくりと距離を縮めて行く。
「美嘉……」
名前を呼ぶと、彼女は満足そうに微笑んで、直人の唇を塞いだ。
そのまま二人は躯を重ね、一夜を共にした。
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