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 それから美嘉は直人の家に住み着き、直人の仕事が晶子の店の警備から大石の会社の下働きに変わった今でも、二人は同棲を続けている。飄々として本音を見せない彼女に振り回されるのは、未だに変わらない。  そしてどうやら美嘉は、男の家を転々としながら生活しているらしい。美嘉は相変わらず自分のことについて余り話さないので本人に聞いた訳ではないが、一度元恋人と思しき男が家へ怒鳴り込んで来たことがあるのだ。どう見ても水商売関係の男で、美嘉を返せ、人の女を盗みやがって、などと玄関先で喚き散らした。だが騒ぎに気付いて部屋から出てきた美嘉は、彼に「どちら様ですか?」と冷たい視線を投げ付けた。  驚いた男が詰め寄ろうと彼女に手を伸ばしたので、直人は一発殴って追い返した。だが後で彼の言葉を拾って考えると、多分美嘉は彼に何も言わず勝手に家から消えたのだろう。突然彼女ほどの美貌の女が居なくなったら、他の男に盗られたと思ってしまうのも分かる。怒鳴り込んできた男は、多分前の店の関係者なのだろう。新しい店に移った美嘉は、もう彼の家に居る理由がなくなったと判断して、切り捨てたのだ。だから覚えていない振りをした。美嘉は男をそういう利用価値で判断するのだ。 「あんた、最初に会った時から私に気があったでしょ?」  初めて躯を重ねた翌朝、美嘉はそう言ってニヤリと笑った。多分初日から、彼女は新しい転居先として、直人に目を付けていたのだろう。  美嘉が何故男の家を転々とする生活をしているのか理由は定かではないが、多分「お金」ということが大きく関わっているように思う。まず、同棲して初めて知ったが、彼女はかなりの拝金主義者である。よく給料やら客からのプレゼントを換金した札束を数えているし、そうしたらもっと稼げる、が口癖で、指名して来る客も、金回りが悪くなったと思ったら即座に連絡を絶つ。彼女にとって一番大事なのは、地位でも恋でもなく、お金なのだ。  そんな彼女が、お金を掛けずに生活する方法として選んだのが、『男と同棲する』ということなのだろう。相手の家に転がり込めば世帯主ではないので、無駄なお金は一切払わなくていい。そこに疑問を持たれないように、相手を自分に夢中にさせておけばいいのだ。実際直人も、彼女に心底惚れてしまっている。
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