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自分の中の抑え切れない熱と情欲を、勢いのままに全て吐き出す。それを受け入れた彼女は、腹の上で躯を仰け反らせ、一番妖艶な声で鳴いた。そして力を無くした火照る躯を、こちらに預けて倒れ込む。その仕草が愛しくて、きつく抱き締める。絡まる二人の荒い吐息だけが、部屋の中に響く。
「……なぁ」
暫くして、徐に言葉を掛けてみる。このタイミングならば、話を聞いてくれるかも知れない。
「結婚だったらしないから」
だが、彼女は言葉を遮るように言い捨てると、腕から逃げて枕元の煙草に手を伸ばした。手の内を見透かされていたことが悔しくて、何も言い返すことが出来ない。
「チンピラの嫁になんかなりたくないって、何回言えば分かんの。そういうことは、もっと稼げるようになってから言えば」
メンソールの煙を吐き出しながら、冷めた瞳で容赦ない言葉を落とす。最後の台詞は、彼女の口癖だ。二言目には、金に関することばかり。
「……何でだよ。お前みたいな女に惚れたのが間違いだな」
ゆっくりと上体を起こして、悔し紛れに嫌味をぶつける。
「そう。あんたが悪い」
嫌味に動じることもなく、ニヤリと口の端で笑う。本当に可愛くない。けれどその可愛げの無さが、逆に支配欲を煽ってしまう。後ろから抱き締めて、無理矢理また腕の中に閉じ込めた。
恋は先に惚れた方が負け、と言うが、本当にその通りのようだ。思えば出逢った日から、こちらの負けは決まっていたのかもしれない。
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