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 サングラスを外した雄樹はキングサイズのダブルベッドに身を投げ出し、晶子から手渡された書類に目を通している。晶子はその柔らかいベッドの縁に座り、彼の表情を窺う。 「まぁ、これでええんちゃう。流石晶子、仕事が早いわ」  そう言って、雄樹は晶子に書類を返した。 「じゃあこのままFAXするわ」  確認の為に、晶子は戻って来た書類を繰る。 「序でに神戸の渡辺さんとこにも頼むわ」  雄樹はそう言いながら晶子の方へ手を伸ばし、スリットの入った膝丈のスカートを捲り上げた。そして露わになった網タイツを纏う太腿に、掌を這わせる。 「そうね、渡辺さんにも連絡しておかないと」  晶子は書類を繰り続けながら答える。確認し終わるとそれをサイドボードに置き、雄樹の目に視線を投げた。一瞬濃密に視線が絡んだ後、晶子は雄樹の唇に噛み付いた。慣れた手付きでお互いから剥ぎ取られる服が、ベッドの傍らに散らかり始めた。  彼の後に続いて、晶子はお湯へ入る。大浴場と呼ぶ方が似合いそうな大理石のそれは、二人が手足を伸ばして浸かってもまだまだ余裕がある位広いのだが、晶子は雄樹に寄り添うように腰を下ろした。そして、彼の肩に頭の重さを預ける。それを受け入れて、雄樹も彼女の頭に優しく掌を乗せた。 「疲れたぁ……」  晶子が溜め息混じりに、甘える猫のような声で呟く。 「最近根詰め過ぎやねん、お前。カオに出とるわ」  彼女の細く茶色い髪を撫ぜながら、雄樹が答える。見ていないようで、彼は晶子のことをよく見ている。多忙のせいで表情が厳しくなっていることも、お見通しだった。 「やだ、バレてたの? 気付かれたくなかったのに」  苦笑しながら、少し俯く。やはり、彼に隠し事は出来ない。例えこんな、些細なことであっても。でも全てを分かってくれるのが嬉しくて、晶子は雄樹の躯に絡み付き、その脚の上に跨った。そして首の後ろに両腕を回す。熱く火照る濡れた肌が、密着する。セックスの時とは、違う肌の感触。重なり合う部分が、ちりちりと痺れるように熱い。 「好きよ」  半分瞼を閉じた熱っぽく妖艶な瞳で、視線を逸らさずに言う。 「俺も、好きやで」  熱く鋭い視線で、雄樹が見詰め返す。どちらが仕掛けたのか判らないが、その儘二人は唇を重ねた。何度も、何度も。啄むように短く、深く貪るように長く。広い浴室の天井に、二人がキスする音だけが響き続けた。
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