1

5/8
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
 目と目だけで通じてしまう、似た者同士の二人。もう、その日の夜には躯を重ね、翌日からは同棲を始めた。恋愛はゲームで駆け引きの道具、と考えて来た晶子だったが、雄樹にそれまでの価値観全てを覆された。掠れた低い声、筋肉質な長い肢体、野心的な考え、義理を重んじる熱い心――知れば知る程、全身全霊で惚れて、愛してしまったのだ。それは、向こうも同じ。二人は互いに溺れ、全てを貪り合い、夢中になっていた。  それと同時に互いに協力し、更にその界隈での下克上を果たしていった。きっかけは、晶子が熟知している地域に雄樹が店を出そうと考えたことだった。軽くアドバイスを求めた雄樹に、晶子は二手三手先を読んだ答えを返した。その視野の広さと頭の回転の良さに、雄樹は感心したのだった。それから彼は晶子に段々仕事の話をするようになり、少しずつ大きな案件を任せ始めた。そして今では、居なければ仕事が進まない程欠かせない存在、雄樹の仕事上でのパートナーとなった。今の雄樹の地位や権力は、晶子の内助の功無しには手に入れられなかったものである。  そして二人が入籍したのは、出逢ってから半年後だった。 「あぁもう面倒くさいわ。晶子、籍入れようや」  それが、雄樹からのプロポーズの言葉だった。場所は事務所で、仕事の相談をしている時、唐突に告げられた。自分の女に私情で仕事を任せていると思われては部下や取引相手に示しが付かないし、書面上でも厄介なことが多い。それが、雄樹が話した求婚の理由だった。余りにも失礼で彼らしいその言葉に、晶子は笑いながらいいわよ、と快諾した。その理由が彼のプライドを保つ為の建前であることが、分かっていたから。そうでなければ、恋人から束縛されるのが大嫌いな雄樹が、自ら束縛される口実を作る筈がない。 「勿論、籍入れたからには、一生離さへんで」  離さない。  付け足しのようなその言葉が本当の求婚の理由なのだと、晶子は誰よりも知っていた。そして晶子も、そんな冷徹に見えて実は熱い心を持った彼と、一生離れたくないと思った。  
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!