眠る姫と僕の習慣

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やって来た火曜日。 足取りの重いまま図書室までの道を歩く。 もう完全に僕の存在はバレてる。 良くて、いつも図書室にいる変なやつってところだろう。 でも、ありがとうって手紙をくれてたし。 悪い印象では無い…と思いたい。 そんな願いをこめながら、今日も図書室の扉を開く。 そこには、彼女は寝てなかった。 彼女はいつもの席に座って、本を読んでいた。 思わずその目を見てしまう。 大き目の瞳は、ゆっくりと動いて本を読んでいる。 …え、どうする。 新鮮でうれしいけど、うれしくない。 サッと彼女の死角の本棚に隠れ、さらにストーカーに近づいている事に気づいた。 いい加減自分でも嫌になってきた。 そこで、急に悪いことをしている気持ちになった。 好きになってしまった彼女の嫌がる事はし続けたくないし、正直に出よう。 無駄に男らしい決意をした僕は、思い切って彼女の前に出ることにした。 「こんにちは」 「あ、こんにちは」 存在を示すように、一言挨拶をかける。 彼女は僕に気付き、挨拶を返してきた。 そのまま、僕は彼女と同じ列の席に座る。 彼女も本に視線を戻した。 …あれ、お咎めなし? チラッと彼女を横目で見てみる。 彼女は珍しく寝ておらず、本をじーっと見ていた。 予想と違う彼女の行動に、僕はただ本を読むしかなかった。 そのまま数十分。 チラチラと彼女を見るも、彼女がこちらを気にする気配は無い。 やがて、いつも僕が帰る時間になる。 寝顔も見れず、ただハラハラしただけで疲れた僕は、そろそろ帰ろうと本から目をはずした。 ガタッ そのタイミングで、隣の彼女が先に立ち上がった。 僕は慌てて本に視線を戻す。 ここで僕も帰る支度したら、確実にストーカー扱いされると思って。 タイミングをずらそう。 そのままの姿勢で、彼女が帰るのを待つ。 やけにゆっくり片付けた彼女は、図書室を出て行こうとした。 「ん?あ、忘れものが」 「っ…」 先程彼女が居た席に何かが置いてあることに気付き、思わず声をかける。 しかし、それを聞いた彼女は驚いたように走って図書室を出て行ってしまった。 …しまった。完全に怖がらせた。 それにこれ…どうする? 横においてある和風の綺麗なしおりと、一枚の手紙のような物を手にとる。 …これ、返さなきゃだめだよね…。
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