本当に本当は。

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「……い、おい」 「……ん……っ?!」 ゆさゆさと身体が揺さぶられる感覚に目を開け、思わず息をのむ。 「……寝るなら布団使えって」 「………!」 いつも通りの気だる気な彼の呆れたような表情が、目の前にあって、心臓がバクバクと大きな音を立てる。 けれど、そんな私の変化に、鈍い彼が気づくわけがなく。 「どうした?」 「え、あ、ううん。何でもない」 見つめられて思わず言葉に詰まった私を、彼が不思議そうな顔をして見つめている。 湯冷めしかけていた身体に一瞬にして熱が走る。 「湯あたりしたのか?」 「え」 「だって、お前、顔赤いけど」 「や、ほんと、大丈夫」 あまりにもじいと見つめてくる彼の瞳に耐えられなくて、思わず手で顔を覆えば「おい」と不満そうな声が返ってくる。 「湯あたりしたんだろ?顔見せろよ」 「いや、本当なんでもない」 「じゃぁ何で隠す」 「隠してません」 「隠してるだろ。いいから、ほら」 「ちょ、待っ」 ぐい、と引かれた手首は、決して痛いわけじゃない。 「…………顔、真っ赤だぞ?」 「………………誰のせいよ」 「え?俺?」 捕まったままの片手首が熱い。 キッ、といつまで経っても気付かない鈍い彼をほんの少し睨めば、彼は驚き、きょとんとした顔している。 やはり気づいていなかったという事にほっとした反面、気づいていて欲しかったという気持ちが、胸の中にぐるりと渦巻く。 「もう!寝る!」 「あ、おう」 半ば八つ当たりのように彼の手を振り払えば、離れ難いはずの手がすんなりと離れる。 きっと、こんな子供じみた私を 彼は困った顔をして見ているに違いない。 そんなことが一瞬にして頭に過ぎって、こちらを見ているであろう彼をみることなく立ち上がって早足で寝室へと足を向ける。 「あ、おい」 リビングを出る直前の私の背に、彼の声がかかる。 「………なに」 どんな顔をしたら良いのか分からず、ぶっきらぼうな返事をして背を向けたままの私に、返ってきたのは、思いのほか、優しい小さな笑い声。 「おやすみ」 思わず振り向いた私の目に柔らかく笑う彼の顔が映る。 「…寝る!」 胸の奥底にしまった気持ちが溢れないようにと勢いをつけて歩きだした私の耳に、「おやすみ」とくつくつと楽しそうな彼の笑い声が響いた。
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