本当に本当は。

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物書きで生計を立てるこの部屋の主とは、古くからの友人で、今、お付き合いをしている彼氏とも知り合いで。彼からしてみたら、私はきっと「古い付き合いの友人」でしか無いのだろうけれど。 …私の抱える感情は、いつからか、それだけでは無いのだと、彼に会う度に訴えるようになった。 けれど、この想いを告げたら、この関係はどうなってしまうのだろうか。 相変わらずに、こちらを気にすることなく仕事に没頭している彼の背に、じい、とした視線を送る。 (この背を無意識に探すようになったのって、いつからだっけ……) 友人たちと出かけても、通りで一人でいる時でも、彼氏ではなく、彼に背格好の似た人を見かけるとつい目で追いかけてしまう。 それが何故なのか。 どうして彼なのか。 その理由を、何度も、何度も自分自身に問いかけてみたけれど。 答えは、たった1つしか、思い浮かばなくて。 とても大切にしてくれる彼氏が居るのに、私の心の奥底に居たのは、彼氏ではなく、この部屋の主の、彼だけ、だった。 そのことに、気づいてしまった時から、彼氏に、申し訳ないという気持ちが強くなってしまい、最近は様々な理由をつけて、彼氏に会う機会から逃げ回っている。 相変わらず、私のじい、とした視線に気づくことなく、パソコンと向き合ったままの彼の変わらない様子に、何故だかほんの少しだけホッとして安堵の息を吐き、この考えを流してしまおうと、私は、来て早々に風呂場へと足を向けた。 もう何というか、この部屋には女性の影1つ感じられないことに、安堵の息をつくべきなのか。 むしろ、誰かの存在が残っていれば、私のこの考えも消し去れるかもしれないのに。   「………ちゃんとご飯を食べてるのかな」 ちゃぽん、と風呂に張った湯が音を立てる。 久しぶりに見た彼は、少し痩せた気がする。珍しく無精髭も生えていたけれど。 「変なの」 素を見せてくれることに対して、嬉しい、だなんて。 こんなの間違っている、と思う。 けれど。 気づいてしまったら、もうどうしようもなくて。 結局、私のぐるぐるとした考えは流れることなく、胸の奥底に留まった。
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