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この間はおいしいメロンをどうもありがとござます、とそこまで書いて、シンコはぷっと吹き出す。修正テープか何かで、ちょちょっと直しちゃえばいいかしら。でも、そんな気の利いたものはこの部屋にはないということに、すぐに気づく。タゴサクさんなら、このまま出しても「ええだよ、ええだよ」って笑って許してくれそうだわ、って一瞬思って、でもやっぱり、ちゃんと新しいはがきに書こう、って、考え直す。
「こざます」じゃないよ、「ございます」だよ。あ、でも、それもヘンか、「ございました」だわ。シンコはこたつの中で足をもぞもぞさせながら、真新しいはがきに向かう。メールなら速くて簡単で、顔文字使ったりして、いろいろ可愛くもできるのになあ。でも、ママに言われた。面倒がらずに、はがきを出しなさい。こういう時代だからこそ、受け取ったほうは心にぐっとくるものなの。誕生日は要チェックよ。ネクタイの好みとか、さりげなく聞き出しておくことね。
先日はおいしいメロンをどうもありがとうごま、とそこまで書いて、シンコは「うっ」と呻き、こたつの上にばたっと突っ伏す。その手の先で、携帯がブーンという唸りと共に、着メロをがなり立てる。シンコは番号も改めずに、切ってしまう。携帯は無いと生きられないと思うけど、1年ぐらい無しで暮らしてみるのもいいな、ってふと思う。ママがあたしぐらいの年だったころは、固定電話しかなかったのはもちろん、留守電でさえ、ある家のほうが少なかったって。それってどんな感じなのかな。想像もつかないな。
ありがとうごま。シンコはちっ、と舌打ちした後、突然、可笑しくて腹がよじれそうになり、くくっ、と息をもらして、ついに耐え切れずに、ぎゃはは、とそっくり返る。あ~、「ごま」って何よ、何なのこれ~。意味わかんないし。笑い過ぎて、目尻の辺りに涙がにじみ出る。携帯が、もう一度ぶーんと鳴る。
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