0人が本棚に入れています
本棚に追加
シンコは「あ~もうヤダ」とつぶやいて起き上がり、キッチンの、シンクの脇に置いてあるプラ袋から、「日新やきそばUFO」を取り出し、湯を入れる。
ふたの縁から立ち上る湯気を見つめながら、左手を頭の上に持っていき、ぱっと開いて、「ゆっふぉー」と言ってみる。お店の今年の、ちょっと早めのクリスマスパーティーで、ショータイムに千夏ちゃんと二人、超ミニ姿でやらされた芸だ。これが客に大うけで、アンコールがかかった。そういう歌が昔あったことは知っている。歌っていた女2人組の歌手がいたことも知っている。でも、シンコにはいまひとつ、何が面白いんだか、よくわからない。…などと思っているうちに、3分経って、めんがゆだる。
湯を切って、かやくとソースをまぜながら、こたつまで持っていく。いまのお店に勤め出してから、もう1年とちょっとになる。こんなに長くやるつもりはシンコ自身、なかった。でも、前の讃岐うどんの店のバイトを首になって、キャバクラも店長とけんかして辞めて、プーしてたときに高校の先輩だったクミさんが誘ってくれて、2、3日やってみたらなんだか居心地がよくて、そのままなんとなく居ついてしまった。正直、お金もなかったし。
シンコにはいくら頑張ってもうまくできない、いくら考えてもよくわからないややこしい事どもを、周りの人はみんなごく当たり前のようにすらすらやってのけて、前へ前へと歩いていく。そんな焦燥にとらわれて、ちょっと哀しくなることがある。
バカでいいのよ、とママは時折思い出したように言う。バカで不器用で、それでいいのよシンコちゃん。愛されるバカになりなさい。世の中、利口モンだけが勝つとは限らないんだよ。余計なこと知ったり考えたりしないでいたほうが、幸せでいられることもあるんだよ。
シンコはカップやきそばの最後の一口をすすりながら、そうかな、とひとりごつ。バカは、いつも騙されて、損してばかりじゃないのかな。
最初のコメントを投稿しよう!