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「自分の家族が営んでいる会社に対し、架空の発注をし、納品をでっちあげ、支払いをしていた」
「どうしてそれで、誰も気づかないんですか」
「ほかの事業部は、本社みたいに人の異動がない。権力を持った人間が長いこと同じ立場に居座り、ルールも自分で作れる。要するにやりたい放題なんだ」
みんなの表情は硬い。
考えていることはきっと同じだ。
──だからこそ、我々がなんとかしなきゃいけなかったのに。
「どうなるんですか、こういう場合。刑事事件扱いなんですか?」
辻くんが岡本さんに尋ねた。
「そう。幸いと言ってはなんだけど、横領の場合、会社は被害者だ。不正を行った管理職に対し、訴訟を起こすんじゃないかな」
「そのあたりの判断は、今執行部で話されている。正直この件に関して、知っておく以上のことは、俺たちにはできん」
重苦しい沈黙の中、「解散」と部長が告げた。
「ユキさん」
席には戻らず、フロアを出た私を、辻くんが追いかけてきた。
「どうしたの」
「いや、あの…」
手を腰のあたりで拭くみたいな仕草をして、気づかわしげにあたりを眺めたり、私を見たり。
くすっと笑いが漏れた。
私を心配しているんだろう。
「大丈夫だから」
「でも」
「ごめん、ひとりにして」
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